2021.12.08

【JH313】慶安の触書

■原典

・条令拾遺

・徳川禁令考




■史料

 一、公儀御法度(1)を怠り、地頭(2)・代官の事をおろそかに存ぜず、扨又、名主組頭(3)をハ真の親とおもふべき事。

 一、朝おきを致し、朝草を刈り、昼ハ田畑耕作にかかり、晩にハ縄をない、たわらをあみ、何にてもそれぞれの仕事油断無く仕るべき事。

 一、酒・茶を買ひのみ申す間敷候、妻子同前の事。….

 一、百姓ハ分別もなく末の考へもなきものニ候故、秋ニ成り候得バ、米・雑穀をむざと妻子ニもくハせ候。いつも正月・二月・三月時分の心をもち、食物を大切ニ仕るべく候ニ付き、雑穀専一ニ候間、麦・粟・稗・菜・大根、其の外何にても、雑穀を作り、米を多く喰つぶし候ハぬ様に仕るべく候。飢饉の時を存じ出し候得バ大豆の葉・あづきの葉・ささげの葉・いもの落葉など、むざとすて候儀ハ、もつたいなき事に候。

 一、男ハ作をかせぎ、女房ハおはたをかせぎ(4)、夕なべ(5)を仕り、夫婦ともにかせぎ申すべし。然れバみめかたちよき女房成り共、夫の事をおろかに存じ、大茶をのみ、物まいり、遊山ずきする女房を離別すべし。…又みめさま悪しく候へ共、夫の所帯を大切にいたす女房をバ、いかにも懇に仕るべき事。

 一、百姓ハ、衣類の儀、布木綿(6)より外ハ、帯、衣裏ニも仕る間敷事。

 一、たば粉のみ申す間敷候。是ハ食にも成らず、結句以来煩ひニ成るものニ候。其の上隙もかけ、代物も入り、火の用心も悪しく候。万事ニ損成るものニ候事。

 …右の如くニ物毎に念を入れ、身持をかせぎ(7)申すべく候。…年貢さへすまし候得バ、百姓程心易きものハ之無く、よくよく此趣を心がけ、子子孫孫まで申し伝へ、能能身持をかせぎ申すべきもの也。

 慶安二年(8)丑二月六日




■注釈

(1)幕府の法令のこと。  (2)知行地を持つ旗本のこと。  (3)名主は江戸時代の村長、組頭はその補佐にあたる人を指す。  (4)「苧(麻の一種)からとった糸で布を織る」の意。  (5)麻布と木綿のこと。  (6)夜の仕事のこと。  (7)身上をあげるように稼ぐこと。  (8)1649年のこと。




■現代語訳

 一、幕府の法令を怠り、地頭・代官の事を粗末に考えることなく、さらに名主や組頭を真の親と思って尊敬すること。

 

 一、早起きをして、朝は草を刈り、日中は田畑の耕作に励み、晩には縄をない、何事にもそれぞれの仕事を念入りに入れて行うこと。

 

 一、酒や茶を買って飲んでではいけない。妻子も同じである。…

 

 一、百姓は分別がなく仔細に考えが及ばないので、秋になれば米や雑穀を軽率に妻子に食べさせている。いつも正月・二月・三月と同じ心持ちで、食べ物を大切にするべきであるので、雑穀が1つであれルナらば、麦・栗・稗・菜・大根、そのほかの何であっても、雑穀を作って、米をたくさん食べてしまわないようにすること。飢饉になれば、大豆の葉・あづきの葉、ささげの葉、いもの落ち葉なども捨ててしまうのはもったいないことである。

 

 一、男は農業に精を出し、女房は苧機を織り、夜なべをして夫婦ともに稼ぐこと。美しい女房であっても夫のことをおろそかに考え、茶ばかり飲み、物詣りや行楽好きの女は離別すべきである。

 

 一、百姓の衣類については、麻の布と木綿以外のものを、帯や着物の裏地にも使ってはならない。

 

 一、たばこは吸ってはならない。これは腹の足しにもならず、結局病気になるだけで、お金もかかるし、火事を出すもとである。全てにおいて損をするものである。

…右のように物事に気をくばり、働くようにせよ。…年貢さえ納めてしまえば、百姓ほど心配のないものは他にはないから、十分にこの意味を心にとめて、子や孫にまで申し伝えて、しっかり働いて財産を作らねばらならない。




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