2021.12.08

【JH342】杉田玄白の蘭学事始

■原典

 ・蘭学事始




■史料

 今時、世間に蘭学といふこと専ら行はれ、志を立つる人は篤く学び、無識なる者は漫りにこれを誇張す。その初めを顧み思ふに、昔、翁が輩二三人、ふとこの業に志を興せしことなるが、はや五十年に近し。

 …その時、翁(1)、申せしは、何とぞこのターヘル=アナトミア(2)の一部、新たに翻訳せば、身体内外のこと分明を得、今日治療の上の大益あるべし、いかにもして通詞等の手をからず、読み分けたきものなりと語りしに、

 …その翌日(3)、良沢(4)が宅に集まり、前日のことを語り合ひ、先づ、かのターヘル=アナトミアの書にうち向ひしに、誠に艫舵なき船の大海に乗り出だせしが如く、茫洋として寄るべきかたなく、ただあきれにあきれて居たるまでなり。




■注釈

(1)杉田玄白本人のこと。  (2)ドイツ人クルムスの著書「解剖図譜」のオランダ語訳本のこと。  (3)1771年3月4日。  (4)前野良沢のこと。




■現代語訳

 (※一部略)

 …私(杉田玄白)は「この『ターヘル=アナトミア』の一部を翻訳すれば、身体の内外のことが分かり治療に役立つだろう。なんとかして通訳の力を借りずに翻訳したい」と言った。

 …その翌日、前野良沢の家に集まり、前日のことを話し合い、『ターヘル=アナトミア』の翻訳に取りかかった。しかし艫や舵のない船が海に出たかのように全く見当がつかず、なんとも手のつけようがなかった。




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