【JH335】寛政異学の禁
■原典
・徳川禁令考
■史料
学派維持の儀に付、申達 林大学(1)の頭え
朱学(2)の儀は、慶長以来御代代御信用の御事にて、已にその方家代代右学風維持の事、仰せ付け置かれ候えば、油断無く正学(3)相励み、門人ども取り立て申すべきはずニ候。
しかるところ近来世上種種新規の説をなし、異学(4)流行、風俗を破り候類これあり、全く正学衰微の故ニ候や、甚だ相済まざる事ニて候。
その方門人どものうちにも右体学術純正ならざるもの、折節はこれあるようニも相聞え、如何ニ候。
このたび聖堂(5)御取り締り厳重に仰せ付けられ、柴野彦助(6)、岡田清助(7)儀も右御用仰せ付けられ候ことニ候えば、よくよくこの旨申し談じ、きっと門人ども異学を相禁じ、なおまた、自門に限らず他門ニ申し合せ、正学講窮(8)致し、人材取り立て候よう相心掛け申すべく候こと。
■注釈
(1)林信敬のこと。大学頭は大学寮の長官で、代々林家がこの称号を受けた。 (2)朱子学のこと。 (3)朱子学のこと。 (4)朱子学以外の儒学の諸学派を指す。 (5)湯島聖堂のこと。幕府の教学の中心で、孔子を祀っている。 (6)柴野栗山のこと。 (7)岡田寒泉のこと。 (8)「講義・研究」の意。
■現代語訳
学派維持の件について、林大学頭へ申しつける。
朱子学のことについて、慶長以来、将軍家代々御信用の学問であり、すでに林家が代々右学風維持のことを仰せつけられているので、たえず朱子学を研究し、門人等を養成しなければならない。
しかし、近頃世間では種々新学説を唱え、異学が流行し、風俗を乱すものがいる。朱子学が衰退したためであろうか、大変よろしくないことである。
(中略)
この度、聖堂学問所の取り締まりを厳重にする。柴野栗山、岡田寒泉等を儒官に登用するので、よくよくこの旨を申し聞かせ、門人に異学を禁止すること。自分の門下だけでなく、朱子学を学ぶ他の儒者とも話し合い、朱子学を講じ研究して、人材を取り立てるよう心がけなくてはならない。