【JH333】田沼政治(賄賂政治と風刺)
■原典
・甲子夜話
■史料
・甲子夜話
田沼氏の盛なりしときは諸家の贈遺様様に心を尽したることどもなりき。
…また田(沼)氏中暑(1)にて臥したるとき候問の使价(2)、此の節は何を翫び給ふやと訊ふ。
菖盆(3)を枕辺に置きて見られ候と用人答へしより、二三日の間、諸家各色の石菖(4)を大小と無く持ち込み、大なる坐敷二計は、透間も無く並べたてて取り扱ひにもあぐみしと云ふ。…
・田沼政治の風刺
役人の子は にぎにぎ(5)をよくおぼえ
年号は やすくながしとかはれども 諸色高じき 今の明和九(6)
浅間し(7)や 富士より高き米相場 火の降る(8)江戸に砂の降るとは
■注釈
(1)「暑気あたり(夏バテ)」の意。 (2)見舞いの使者のこと。 (3)ショウブを植えた盆栽のこと。 (4)ショウブと同じ香花。 (5)賄賂などを受け取る様子のこと。 (6)明和九年を安永元年に改元。物価高を風刺している。 (7)1783年の浅間山の大噴火のこと。 (8)貧しい様を表す。
■現代語訳
・甲子夜話
田沼意次氏の勢いがあった時は、諸大名からの贈り物も工夫が凝らされていた。
田沼が暑気あたりで寝込んでいる時、見舞いの使者が、最近は何を喜ぶかと聞くと、「ショウブの盆栽を枕元に置いてごらんになっっています。」と用人が答えるので、二、三日の間に諸大名は色とりどりの石菖を大小となく持ち込んで大きな座敷の2つに隙間なく並べ、取り扱いに苦労したという。
・田沼政治の風刺
役人の子は にぎにぎをよく覚える。
年号は安く永くと変わったけれど、物価は高いままで今も「明和九(迷惑)」である。
浅間山の噴火により、米価は富士山よりも高くなり、困窮している江戸時代の人々の上に火山灰までもが降ってくるとは嘆かわしい。