【JH322】経済録〜大名の財政難〜
■原典
・経済録
■史料
今ノ世(1)ノ諸侯ハ、大モ小モ、皆首ヲタレテ町人ニ無心(2)ヲイヒ、江戸・京都・大坂其ノ外処々ノ富商ヲ憑ンデ、其ノ続ケ(3)計ニテ世ヲ渡ル。邑入(4)ヲバ悉ク其ノ方ニ振リ向ケ置キテ、収納ノ時節ニハ、子銭家ヨリ倉ヲ封ズル類也。子銭家トハ、金銀ヲ借ス者ヲ云フ。
邑入ニテ償ヒテモ猶足ラズ、常ニ債ヲ責メラレテ、其ノ罪ヲ謝スルニ安キ心モナク、子銭家ヲ見テハ、鬼神ヲ畏ルル如ク、士ヲ忘レテ町人ニ俯伏シ、或ヒハ重代ノ宝器ヲ典当シテ時ノ急ヲ免ガレ、家人ヲバ飢サシテ、子銭家ヲバ珍膳ニテSシ、或ヒハ子銭家トテ、故モナキ商賈ノ輩ニ、禄俸ヲ与ヘテ家臣ノ列ニ入レ、或ヒハ貰リタル物ノ直ヲ償ハズ、工人役夫等ノ賃銭ヲ償ハズシテ、其ノ人ヲ困究セシムル類、凡ソ廉恥ヲ忘レテ不仁不義ヲ行フ人、比比トシテ皆是也。諸侯スラ然ル也。況ンヤ薄禄ノ士大夫ヲヤ。風俗ノ敗レ、悲シムニ余レリ。
■注釈
(1)18世紀後半の享保期のこと。 (2)遠慮なく金をねだること。 (3)「援助」の意。 (4)領地からの年貢収入のこと。
■現代語訳
今のよの諸大名は大名も小名も、みな頭を下げて町人に借金を組み、江戸・京都・大坂その他の諸都市の大聖人を頼りにし、その援助によって生計を立てている。年貢収入は全てその借金返済にあて、収納の季節なると、金貸しの承認が蔵を差し押さえるほどである。子銭家とは金銀を貸す者のことを指す。…(以下、略)。