【JH321】西洋紀聞~新井白石の西洋観~
■原典
・西洋紀聞
■史料
凡そ其の人(1)博聞強記にして、彼方多学の人と聞えて、天文・地理の事に至ては、企て及ぶべしとも覚えず。…其の教法(2)を説くに至ては、一言の道(3)にちかき所もあらず。
…彼方の学のごときは、ただ其の形と器とに精しき事を。所謂、形而下(4)なるもののみを知りて、形而上(5)なるものはいまだあづかり聞かず。さらば天地の如きも、これを造れるものありという事、怪しむにはたらず。
■注釈
(1)イタリア人宣教師シドッチのこと。 (2)キリスト教の教義やその道徳のこと。 (3)道徳的真理のこと。 (4)「形を備えているもの」「感性的経験で知り得るもの」を指す。 (5)「形をもっていないもの」「感性的経験では知り得ないもの」を指す。
■現代語訳
イタリア人宣教師のシドッチは記憶力がよく多岐にわたる知識を持ち、天文・地理の知識が特に優れている。しかし、キリスト教の教義や道徳に関する説明には一言も道徳的真理に近いものはみられない。
西洋の学問というのは、ただ物質的な技術的な知識にのみ詳しく、目に見える現象のみを扱うような、いわゆる形而下のみが発達して現象を超越した、その背後にある真の本質を追求するような形而上学については、まだほとんど考究されていないようである。だから天地を創造した神などという言説があるのも当然であろう。