【JH211】阿氐河荘民の訴状
■原典
・高野山文書
■史料
阿テ河ノ上村(1)百姓ラツツシテ言上
一、ヲンサイモク(2)ノコト。アルイワチトウノキヤウシヤウ(3)、アルイワチカフ(4)トマウシ、カクノコトクノ人フヲ、チトウノカタエせメツカワレ候ヘハ、ヲマヒマ候ワス候。ソノノコリ(5)、ワツカニモレノコリテ候人フヲ、サイモクノヤマイタシ(6)エ、イテタテ候エハ、テウマウノアト(7)ノムキマケト候テ、ヲイモトシ(8)候イヌ。ヲレラカコノムキマカヌモノナラハ、メコトモヲヲイコメ、ミミヲキリ、ハナヲソキ、カミヲキリテ、アマニナシテ、ナワホタシヲウチテ(9)、サエナマント候ウテ、せメせンカウ(10)せラレ候アイタ、ヲンサイモク、イヨイヨヲソナワリ候イヌ。ソノウエ百姓ノサイケイチウ、チトウトノエコホチトリ候イヌ。
ケンチカン子ン十月廿八日 百姓ラカ上
■注釈
(1)紀伊国(現和歌山県)有田郡阿氐河荘のこと。 (2)雑税の一種である材木のこと。
(3)京都大番役のため、地頭が京都に上ること。 (4)付近で労働する人夫役のこと。
(5)「地頭に駆り出された残りの人数」のこと。 (6)「材木の切り出し」の意。
(7)「逃亡した農民の耕地」の意。 (8)「山から追い戻す」の意。
(9)「(縄で)縛る」の意。 (10)「きびしく責め立てる」の意。
■現代語訳(口語訳)
阿氐河荘上村の百姓訴状
一、材木の納入が遅れている要因は、地頭が上京や作業があるといって人夫を使うからです。残った僅かな人夫を材木の切り出しに出せば、地頭は逃亡した百姓の畑に麦をまけといい、山から追い出します。麦をまかなければ、妻や子どもたちの耳や鼻をそぎ、髪を切り尼にして、縄で縛って痛めつけるぞと厳しく責め立てます。このため、材木の納入がますます遅れています。