【JH208】御成敗式目
■原典
・御成敗式目
■史料
一、諸国守護人(1)奉行の事
右、右大将家(2)の御時定め置かるる所は、大番催促(3)・謀叛・殺害人付、夜討・強盗・山賊・海賊等の事也。…
一、諸国の地頭、年貢所当(4)を抑留せしむる事
右、年貢を抑留するの由、本所(5)の訴訟有らば、即ち結解を遂げ勘定を請くべし(6)。犯用の条、若し遁るる所なくば、員数に任せて之を弁償すべし。…猶此の旨に背き難渋せしめば、所職を改易せらるべき也。
一、御下文(7)を帯ぶると雖も知行(8)せしめず、年序(9)を経る所領の事
右、当知行の後、廿ヵ年を過ぎば、大将家の例に任せて理非を論ぜず(10)改替に能はず。而るに知行の由を申して御下文を掠め給はるの輩、彼の状を帯ぶると雖も叙用(11)に及ばず。
一、女人養子の事
右、法意(12)の如くは之を許さずと雖も、大将家の御時以来当世に至るまで、其の子無きの女人等所領を養子に譲り与ふる事、不易の法(13)勝計すべからず(14)。加之(15)、都鄙の例先蹤(せんしょう)惟れ多し(16)。評議の処(17)、尤も信用に足る歟。
■注釈
(1)職務として遂行する任務のこと。 (2)源頼朝のこと。右大将家に任命されたことに由来する。
(3)京都大番役に御家人を督促する公事のこと。 (4)年貢と同じ意味。 (5)「荘園領主」のこと。
(6)「年貢の未納と既納などを明らかにして裁定を下すこと」の意。
(7)「本領安堵・新恩給与の下文」のこと。 (8)「事実上の支配」のこと。
(9)「相当期間の年数」のこと。 (10)「権利の正当性に関係になく」の意。
(11)「取り上げて用いる」の意。 (12)律令の趣旨。 (13)「武家の慣習法」のこと。
(14)「数え切れないほどである」の意。 (15)「そればかりでなく」。
(16)「国内各地で前例も多い」の意。 (17)式目の制定における評定会議の審議内容のこと。
■現代語訳(口語訳)
一、諸国の守護の職務のこと
右大将源頼朝の時代に定められたことは、大番役の催促、謀叛人・殺害人の逮捕である。それに加えて夜討、強盗、山賊・海賊の逮捕などである。…
一、諸国の地頭、年貢所当を横領していること
地頭が年貢を横領していると荘園領主から訴訟があった場合、すぐに既納と未納を明らかにして裁定を受けよ。本所の収益とすべき分を横領していることが明らかになった場合には、所定の裁量を弁償せよ。…これに背いたならば地頭の権利を取り上げる。
一、本領安堵や新恩給与の下文を持っていても、実際に所領支配のないままに所定の年数を経た所領について
実際の支配が20年を過ぎた場合には、慣例により権利の正当性に関わらず変更することはない。しかし、実際に支配していると偽って下文をもらった者が、証拠書類を有しているからと言ってもその主張は採用されない。
一、女性が養子をとることについて
律令の趣旨では許されていないが、大将家(頼朝)の時代から今日に至るまで、子のいない女性が所領を養子に譲与することは、武家社会の変わらぬしきたりとして数え切れないほど多い。そればかりでなく、国内の各地で前例も多い。評定会議の決定としても確かなものである。