【JH207】北条泰時の消息文
■原典
・唯浄裏書、九月十一日付消息文
■史料
さてこの式目をつくられ候ハ、なにを本説(1)として注し載せらるるの由、人さためて謗難(2)を加ふる事候歟。ま事にさせる(3)本文にすかり(4)たる事候はねとも、たたたうりのおすところ(5)を記され候者也。…(中略)…この式目ハ只かなをしれる物の世間におほく候ことく、あまねく人に心えやすからせんために、武家の人へのはからひのためはかりに候。あまりて京都の御沙汰、律令のおきて聊もあらたまるへきにあらす候也。
■注釈
(1)「基礎」の意。 (2)「非難」の意。 (3)「これといえるもの」の意。
(4)「よりどころ」「参考」の意。 (5)「道理の示すところ」の意。武家社会における慣習のこと。
■現代語訳(口語訳)
この式目は何を基礎にして作成したのかと公家は非難するだろう。これと言えるものを参考にしたわけではなく、ただ武家社会の道理(慣例・道徳)を記したものである。この式目は仮名しか知らない者が世間には多いので、広く人々が理解しやすく、武家の人々への便宜のために定めたものである。これによって朝廷の法である律令が変わることはない。