【JH345】林子平の海防論「海国兵談」
■原典
・海国兵談(林子平)
■史料
当世の俗習(1)にて、異国船の入津(2)ハ長崎に限りたることにて、別の浦え船を寄ルことハ決して成らざることト思へり。実に太平に鼓腹(3)する人トいうべし。
…海国なるゆへいずれの国の浦えも心に任せて船を寄らるることなれば、東国なりとてかつて油断はいたされざることなり。…当時(4)長崎に厳重に石火矢(5)の備へありて、かえって安房・相模の海港にその備へなし。このことはなはだ不審。
細カに思へば江戸の日本橋より唐(6)・阿蘭陀まで境なしの水路なり。しかルをここに備へずして長崎にのミ備フルはなんぞや。…
■注釈
(1)「一般の習慣」のこと。 (2)「入港」の意。 (3)「太平の世を楽しむ」の意で、腹づつみを打って太平の世を楽しんでいること。 (4)「現在」の意。 (5)大砲のこと。 (6)当時の中国(清国)を指す。
■現代語訳
現在の一般の習慣で、外国船の入港は長崎に限定されているため、他の港への入港はあり得ないと考えられている。これはあまりにも太平の世に慣れすぎた人たちであるというべきだ。
海に囲まれた国であるからどこの港へも自由に乗り寄せることができる。東国だからと言って決して油断はできないのである。現在、長崎には厳重に大砲の備えがあるが、安房や相模の港にはその備えがない。これは大変おかしいことである。
よく考えてみると、江戸の日本橋から中国やオランダまで境のない水路続きである。そうであるのに長崎だけに備えをするのはどうしたことか。