【JH215】二条河原の落書
■原典
・建武年間記
■史料
此比都ニハヤル物、夜討強盗謀綸旨(1)、召人早馬虚騒動、生頸還俗自由出家、俄大名迷者、安堵恩賞虚軍、本領ハナルル訴訟人、文書入タル細j 、追従讒人(2)禅律僧、下克上スル成出者(3)、器用堪否沙汰モナク、モルル人ナキ決断所(4)、キツケヌ冠上ノキヌ、持モナラハヌ笏持テ、内裏マシハリ珍シヤ、賢者カホナル伝奏ハ、我モ我モトミユレトモ、巧ナルケル詐ハ、ヲロカナルニヤヲトルラム、…(中略)…
誰ハ師匠トナケレトモ、遍ハヤル小笠懸(5)、事新キ風情也、京鎌倉ヲコキマセテ、一座ソロハヌエセ連歌、在在所所ノ歌連歌、点者ニナラヌ人ハナキ、譜第非成ノ差別ナク、自由狼藉ノ世界也。犬田楽(6)ハ関東ノ、ホロフル物ト云ナカラ、田楽ハナヲハヤル也、…
■注釈
(1)蔵人が天皇の命を奉じて出す文書のこと。 (2)おべっかや告げ口のこと。
(3)文中では「楠木正成」を指すとされる。 (4)雑書決断所のこと。
(5)馬上から小さな的を射る射技の1つ。 (6)「闘犬」と「田楽」のこと。
■現代語訳(口語訳)
1334年、京都で流行するものは夜討ち、強盗、偽の綸旨、囚人護送の召人、地方変事を告げる早馬、意味のない騒ぎ。生首が転がり、還俗した僧侶、勝手に出家する者、急に大名となった者、落ちぶれて路頭に迷う者。本領安堵や恩賞目当てにありもしない戦の手柄を主張する者。本領を没収された訴訟人は、証拠文書を入れた細い葛を持って集まっている。おべっかや告げ口、政治に口出しする禅僧や律僧、下克上した成り上がり者。能力に関わらず、誰でも雑書決断所の職員に登用されている。着慣れない公家風の冠や衣装を身につけ、持ち慣れない笏を持って内裏に登るのは滑稽である。
師匠を決めず、小笠懸が広く流行するのは新しい風情である。公家風や武家風の規則が混じり、一座が揃わない連歌では、誰もが優劣をつける点者になれる。古い家柄の者も成り上がり者も区別がなく、かって無法の世界である。闘犬と田楽で鎌倉時代は滅んだというのに田楽は流行っている。