・ 資料戦後二十年史
・官報(昭和二十一年一月一日)
茲ニ新年ヲ迎フ。顧ミレバ明治天皇明治ノ初国是トシテ五箇条ノ御誓文ヲ下シ給ヘリ。…叡旨公明正大、又何ヲカ加ヘン。朕ハ茲ニ誓ヲ新ニシテ国運ヲ開カント欲ス。須ラク此ノ御趣旨ニ則リ旧来ノ陋習ヲ去リ、民意ヲ暢達(1)シ、官民揚ゲテ平和主義ニ徹シ、教養豊カニ文化ヲ築キ、以テ民生ノ向上ヲ図リ、新日本ヲ建設スベシ(2)。
惟フニ長キニ亘レル戦争ノ敗北ニ終リタル結果、我国民ハ動モスレバ焦燥ニ流レ、失意ノ淵ニ沈淪(3)セントスルノ傾キアリ、詭激ノ風漸ク長ジテ道義ノ念頗ル衰へ、為ニ思想混乱ノ兆アルハ洵ニ深憂ニ堪エズ。
…朕ハ爾等国民ト共ニ在リ、常ニ利害ヲ同ジウシ休戚ヲ分タント欲ス。朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯(4)ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神(5)トシ、且ツ日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念(6)ニ基クモノニモ非ズ。…
(1)「のびのびt自由な様子」の意。 (2)人間宣言の正式名称は「新日本建設ニ関スル詔書」。 (3)「沈んで落ちている」の意。 (4)紐と帯のことで、「つながり」という意味で用いられる。 (5)世に姿を表している神のことで、「現人神(あらひとがみ)」と言われる。 (6)「根拠のない考え」という意味で、太平洋戦争中に盛んに宣伝された「大和民族優秀論」や八紘一宇の理念などを指す。
ここに新年を迎えた。顧みれば、明治天皇が明治の初めに国の方針として五箇条の誓文を出された。…このお考えは公平で正しく、何も加えることはない。私(天皇)はここに誓いを新たにし、国運を開きたいと思う。この趣旨にそってよくない風習を捨てて民衆の意見を自由にし、政府も民衆も平和主義に徹して教養豊かに文化を築き、民衆の生活を工場させ、新しい日本を建設すべきである。
長きにわたる戦争での敗北で、日本国民は焦燥に駆られ、失意のそこに沈んでしまうところであり、言行が中正を失って久しく、道徳は衰えてしまい、よって思想が混乱してしまう状態にあるのは誠に憂慮することである。
私は国民と共にあり、いつも利害を共にして喜びも悲しみも分かち合おうと思っている。私と国民の結合は、互いの信頼と敬愛にあり、神話や伝説によるものではない。天皇を現人神として日本国民は他民族に優越して支配する使命があるという根拠のない考えに基づくものでもない。