2021.12.10

【JH510】金融恐慌

■原典

・『伯爵伊東巳代治』




■史料

 

 現内閣(1)ハ一銀行一商店(2)ノ救済ニ熱心ナルモ、支那方面ノ我ガ居留民及ビ対支貿易ニ付テハ何等施ス所ナク、唯唯我等ノ耳ニ達スルモノハ、其ノ惨憺タル(3)暴状ト、而シテ政府ガ弾圧手段ヲ用イテ、コレラノ報道ヲ新聞紙ニ掲載スルコトヲ禁止シタルコトナリ。

  

 之ヲ要スルニ、今日ノ恐慌ハ現内閣ノ内外ニ対スル失政ノ結果ナリト云フヲ憚ラズ。一銀行一会社ノ救助ノ為ニ、既ニ二億七百万円、今復タ二億ノ補償義務、合計シテ四億七百万円ノ鉅額ヲ、人民ノ膏血ヨリ出タル国帑ノ負担ニ帰セシメントシ、支那ニ在留スル数万ノ同胞ニ対シテハ殆ド顧ル所ナシ。




■注釈

(1)第一次若槻礼次郎内閣のこと。  (2)台湾銀行と鈴木商店を指す。  (3)「惨めなさま」の意。 




■現代語訳

 

若槻礼次郎内閣は、台湾銀行と鈴木商店の救済に熱心であるが、中国方面の日本人居留民や中国貿易については何も手をうたず、ただ私たちが聞くのは、そのみじめな状況と新聞によるこれらの報道を政府が弾圧して禁止しているということである。

 

 これは要するに、今日の恐慌は現内閣の内外における失政が招いた結果である。一銀行一商社の救済のためにすでに二億七百万が、そして今また二億の補償があり、合わせて四億七百万円という膨大な資金を、国民が苦労して得た収益や財産をもととする国財で負担としようとするもので、支那に駐留する数万の同胞のことをほとんど顧みないものである。




 ← 前の投稿に戻る

 

   

次の投稿に進む →

   

   

>> 一覧に戻る <<