2021.12.10

【JH503】民本主義

■原典

・「中央公論」吉野作造 1916年1月号




■史料

 

 民本主義(1)といふ文字は、日本語としては極めて新らしい用例である。従来は民主主義といふ語をもって普通に唱へられておったやうだ。

 

 …しかし民主主義といへば、社会民主党(2)などといふ場合におけるがごとく、「国家の主権は人民にあり(3)」といふ危険なる学説と混同されやすい。

 

 …政治上、一般民衆を重んじ、其の間に貴賤上下の別を立てず、しかも国体(4)の君主制たると共和制たるとを問はず、あまねく通用する所の主義たるがゆえに、民本主義といふ比較的新しい用語が一番適当であるかと思ふ。

 




■注釈

 

(1)吉野作造は民本主義を「一般民衆の利益幸福ならびにその意向に重きをおくという政権運用上の方針」と定義した。  (2)1901年に結社され、治安警察法によって結社の直後に禁止された。労働者を支持層とする。  (3)吉野作造は主権在民を「危険なる学説」として主権在君を容認している。  (4)国家体制、政治の基本的な仕組みのこと。




■現代語訳

 

民本主義という言葉は日本語として極めて新しい言葉である。従来は民主主義という語が使われていた。

…社会民主党などという場合のように、「国家の主権は人民にある」という危険な学説と混同されやすい。

 

 政治において一般民衆を尊重し、その間に差別なく、しかも君主制、共和制に関係なく広く通用する主義であるので民本主義という新しい用語が最もふさわしいと思う。




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