2024.11.22

【JH440】与謝野晶子「君死にたまふこと勿れ」

■原典

・『明星』(1904年9月号)




■史料

 

 あゝをとうと(1)よ君を泣く   君死にたまふこと勿れ

 末に生れし君なれば     親のなさけはまさりしも

 親は刃をにぎらせて     人を殺せとをしへしや

 人を殺して死ねよとて    二十四までをそだてしや…

 

 君しにたまふこと勿れ    すめらみこと(2)は戦ひに

 おほみづから出でまさね   かたみに(3)人の血を流し

 獣の道に死ねよとは     死ぬるを人のほまれとは

 大みこゝろ(4)の深ければ    もとよりいかで思されむ

 




■注釈

(1)与謝野晶子の実弟籌三郎をさす。日露戦争で兵員として動員された。  (2)天皇(明治天皇)のこと。  (3)「互いに」の意。  (4)「天皇の心」の意。  

 




■現代語訳

 

 ああ、弟よ  あなたを思っている。

 弟よ、死なないで

 末っ子に生まれたあなただから、親の愛情はより深く、

 親は刃を握らせて、人を殺せと教えましたか。

 人を殺して自分も死ねと教えて二十四歳まで育てましたか(そんなことはない)。…

 

 弟よ、死なないで。  天皇は戦争にご自身は出向かずに、

 互いに人の血を流し獣の道に死ねなどと、

 死ぬことが人の名誉になるなんて、

 天皇はお心深き方なので、

 そもそもそんなことはお思いになろうか(そんなことはない)。…




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