・『明星』(1904年9月号)
あゝをとうと(1)よ君を泣く 君死にたまふこと勿れ
末に生れし君なれば 親のなさけはまさりしも
親は刃をにぎらせて 人を殺せとをしへしや
人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや…
君しにたまふこと勿れ すめらみこと(2)は戦ひに
おほみづから出でまさね かたみに(3)人の血を流し
獣の道に死ねよとは 死ぬるを人のほまれとは
大みこゝろ(4)の深ければ もとよりいかで思されむ
(1)与謝野晶子の実弟籌三郎をさす。日露戦争で兵員として動員された。 (2)天皇(明治天皇)のこと。 (3)「互いに」の意。 (4)「天皇の心」の意。
ああ、弟よ あなたを思っている。
弟よ、死なないで
末っ子に生まれたあなただから、親の愛情はより深く、
親は刃を握らせて、人を殺せと教えましたか。
人を殺して自分も死ねと教えて二十四歳まで育てましたか(そんなことはない)。…
弟よ、死なないで。 天皇は戦争にご自身は出向かずに、
互いに人の血を流し獣の道に死ねなどと、
死ぬことが人の名誉になるなんて、
天皇はお心深き方なので、
そもそもそんなことはお思いになろうか(そんなことはない)。…