【JH440】与謝野晶子「君死にたまふこと勿れ」
■原典
・『明星』(1904年9月号)
■史料
あゝをとうと(1)よ君を泣く 君死にたまふこと勿れ
末に生れし君なれば 親のなさけはまさりしも
親は刃をにぎらせて 人を殺せとをしへしや
人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや…
君しにたまふこと勿れ すめらみこと(2)は戦ひに
おほみづから出でまさね かたみに(3)人の血を流し
獣の道に死ねよとは 死ぬるを人のほまれとは
大みこゝろ(4)の深ければ もとよりいかで思されむ
■注釈
(1)与謝野晶子の実弟籌三郎をさす。日露戦争で兵員として動員された。 (2)天皇(明治天皇)のこと。 (3)「互いに」の意。 (4)「天皇の心」の意。
■現代語訳
ああ、弟よ あなたを思っている。
弟よ、死なないで
末っ子に生まれたあなただから、親の愛情はより深く、
親は刃を握らせて、人を殺せと教えましたか。
人を殺して自分も死ねと教えて二十四歳まで育てましたか(そんなことはない)。…
弟よ、死なないで。 天皇は戦争にご自身は出向かずに、
互いに人の血を流し獣の道に死ねなどと、
死ぬことが人の名誉になるなんて、
天皇はお心深き方なので、
そもそもそんなことはお思いになろうか(そんなことはない)。…